法人化の目的の一つとして語られることが多い、消費税の免税期間。
売上が1,000万円を超えると、その期の2年後に消費税の課税事業者になりますが、2年後に法人成りすることでさらに2年間の消費税免税期間を作ることができます。
一方で、2023年10月に導入されるインボイス制度の影響で、法人成り後すぐに課税事業者になる判断をした方がいいケースがあります。
この記事では、インボイス制度が法人成りに及ぼす影響に触れつつ、フリーランスが法人成りするベストなタイミングについてご紹介します。
フリーランスが法人化するベストなタイミング

消費税や所得税など、税金の面でフリーランスが法人化するとお得になるタイミングが以下の2つです。
それぞれ詳しく解説していきます。
売上高が1,000万円を超えた時
フリーランスは、1年間の売上高が1,000万円を超えた段階で、消費税の納税義務が2年後に生じます。法人の場合は、起業して最初の2年間は、消費税の支払いが免除されます。
なので、フリーランスになって売上高が1,000万円を超えてしまっても、2年経ったところで法人化すれば、さらに2年間消費税が免除されることになります。つまり、合計4年間消費税が免除されることになります。
辻本
課税所得900万円を超えた時
先ほどは消費税でしたが、所得税の観点で言うと、課税所得が900万円を超えそうなフリーランスは法人化を検討するタイミングです。
フリーランスは確定申告後、所得税を納めます。この所得税は、累進課税方式という仕組みが採用されていて、課税所得が900万円以下だと所得税は23%、900万円を超えると33%、1,800万円を超えると40%、4,000万円を超えると45%という風に課税率がどんどん上がって行きます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円〜330万円 | 10% | 97,500円 |
330万円〜695万円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜900万円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,800万円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜4,000万円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円 | 45% | 479万6,000円 |
一方、フリーランスが法人成りした場合、支払う税金は所得税から法人税に変わります。法人税は、固定税率(最高23.9%)が適用されるので、課税所得が高ければ高いほど、所得税より法人税の方が納める税金は安くなります。
辻本
インボイス制度が法人成りに及ぼす影響
インボイス制度=適格請求書等保存方式です。適格請求書とは、消費税を納めている課税事業者のみが発行できる請求書のことを指します。免税事業者は発行できません。
インボイス制度の下では、取引相手から事業者登録番号が明記された適格請求書が求められます。それがないと、取引相手は消費税の納税額から、仕入れや外注費にかかった消費税を差し引くことが認められなくなります。
つまり、適格請求書を発行できない消費税の免税事業者は、取引先や業務委託先から取引を断られたり、課税事業者になるよう求められたりすることが予想できます。
そのため、インボイス制度導入後はこの免税期間を享受できず、法人成り後すぐに課税事業者となり、消費税を納税せざるを得ない状況となるケースもでてくるのです。
辻本
①取引が減ってしまうのを覚悟で、免税事業者のまま事業を続ける。
②売上を増やして消費税の課税事業者になり、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する。
③課税売上高が1,000万円未満のままでも「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、消費税の課税事業者になる。今まで必要のなかった消費税の申告と納税を行う。
個人的には、②の売上を増やして、課税事業者を目指すことをおすすめします。
フリーランスが法人化する4つのメリット

フリーランスが税金や事業面で法人化するメリットは以下の4点です。
それでは、順に見ていきましょう。
社会的信用が得られる
フリーランスは、クレジットカードや賃貸審査に落ちてしまうなど、社会的信用が低いことが一つのデメリットとしてあげられます。
さらに、事業の面でも、
・フリーランスという理由で融資の審査に落ちてしまった・・
・取引先から、法人化しないと契約しないと言われてしまった・・
など、社会的信用が低いという理由で、事業の拡大が阻害されることがあります。
辻本
2年間消費税の支払いが免除される
前述の通り、法人化して最初の2年間は、消費税の支払いが免除されます。
フリーランスとしての売上高が1,000万円を超えてしまっても、2年経ったところで法人化すれば、さらに2年間消費税が免除されることになります。
つまり、合計4年間消費税が免除されることになります。
決算期が選べる
フリーランスの場合、決算期は12月です。また確定申告、納税は2月15日〜3月15日までに行わなくてはなりません。「1年で一番忙しい時期になぜ?」と頭を抱えたことのある方も多いのではないでしょうか?
しかし法人であれば、決算期を自由に設定することができ、後から変更することも可能です。そのため、決算期は事業の繁忙期を避け、閑散期に済ませることができます。
辻本
退職金・役員報酬を経費にできる
法人になると、役員に対する役員報酬や退職金は損金算入できます。
フリーランスは退職金を支払うことはできませんが、法人であれば自分や家族の役員に退職金を支払うことができ、節税につなげることができます。
フリーランスが法人化する4つのデメリット

フリーランスが法人化することのデメリットは以下の4点です。
設立コストがかかる
法人化する場合、法務局に設立登記申請に行く必要があります。株式会社の場合、登記代、印紙代だけで24万円ほどの費用がかかります。
登記手続きを、司法書士や行政書士にお願いすることもできますが、その場合、追加で5〜10万円前後の費用がかかります。
赤字でも税金を支払う必要がある
フリーランスは、年間収入が赤字だと税金を支払う必要はありませんが、法人の場合、会社の利益に関係なく、毎年7万円ほどの均等割を支払う必要があります。
フリーランスだったころと比べると、事業の収支に余裕がある時は大丈夫だけど、厳しくなってくると税金の支払いがきつくなる・・とおっしゃる経営者は多いです。
社会保険の負担が大きくなる
法人化した場合、本人も含め、加入要件を満たすすべての従業員を社会保険に加入させる必要があります。社会保険料は、半分は本人もしくは従業員が負担、残りの半分は会社が負担することになります。
会社の経費で経営者や家族が社会保険に加入できるというメリットがある反面、負担も大きいです。
毎月の給与が固定
極端な話ですが、フリーランスは総収入から経費や税金分を差し引いた金額を、自分の収入として自由に使うことができます。
しかし、法人になると役員報酬が自分の収入になるので話が変わってきます。役員報酬は毎月受け取ることできる報酬を、年度初めに決める必要があります。
たとえどんなに会社が儲かっても、役員報酬の額を変更できるのは翌年度からになります。逆を言えば、どんなに赤字だったとしても簡単には報酬額を変更できず、そのため思わぬ税金を支払わなければならなくなった、というケースもあります。
・売上高が1,000万円を超えた時/課税所得900万円を超えた時が法人化するベストなタイミング
・フリーランスが法人化することで2年間消費税の支払いが免除される
・退職金・役員報酬は経費計上できる
・設立コスト(約25万円ほど)がかかる
・社会保険の負担が大きくなる
・毎月の給与(役員報酬)が固定
フリーランスが法人化する手続き方法

フリーランスから法人化するためには、以下の6つのステップが必要になります。
それぞれ詳しく解説していきます。
設立手続き
株式会社を設立する場合、会社の設立準備を進める発起人の決定からスタートします。社名、事業内容などの基本事項を決め、定款を作成します。
設立登記の申請
本店所在地管轄の法務局で設立登記の申請を行います。申請書、定款、印鑑証明、資本金振込が証明できる通帳のコピーなどが必要です。
法人口座の開設
登記申請を行い、登記事項証明書を発行してもらったら、法人口座を開設します。
法人口座の開設に必要な書類や手続きは、銀行によって異るので、開設前にしっかり確認しておきましょう。
役員報酬を決める
会社設立から3カ月以内に、役員報酬=給料を決める必要があります。その金額は、事業年度が終わるまで変更できないので、売上額をしっかり見越して決定しましょう。
諸官庁への届け出
会社を設立したら、諸官庁への届出を行います。税務署では国税関係、税務事務所では地方税関係の届け出を行います。この手続きが終わってようやく、会社設立について公に知らせたことになります。
また、無事に法人設立や資産移行が完了したら、最後に個人事業の廃業手続きを行います。
具体的には、以下の書類を税務署に提出します。
・個人事業の開業届出・廃業等届出書
・青色申告の取りやめ届出書 ※青色申告をしていた場合
・事業廃止届出書 ※消費税を支払っていた場合
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書 ※従業員を雇っていた場合
辻本
健康保険・年金の手続き
社会保険、すなわち厚生年金と健康保険への加入は、従業員が1人以上の法人に義務付けられています。
会社設立後は、すみやかに管轄の年金事務所で加入手続きを行うようにしましょう。